動脈硬化のメカニズム
「動脈粥様硬化」とは、動脈の血管壁にコレステロールや中性脂肪などの脂質がたまって粥様(おかゆ状)の黄色い病巣ができ、繊維状のタンパクが増えたり、血管を硬くしてしまうのが特徴です。
現代の医学は、動脈粥様硬化の病変を細胞や分子生物学のレベルで明らかにするところまできています。
研究によると、動脈粥様硬化の仕組みについては、「血管内皮損傷と血小板の凝集」「動脈平滑筋細胞の増殖」「脂質浸潤」という3つの作用が鍵をにぎると考えられています。
中医学による病因病機
中医学では、虚血性疾病患をどうのようにとらえているのでしょうか。
中医学では、虚血性疾病患を、「心」「肝」「脾(消化器系)「腎」などのバランス失調と、気血の不足からくる陰陽のバランスの崩れとしてとらえています。
わかりやすくいえば、内臓の働きが悪く、それぞれの生理機能を押し進める力が低下していることから起こる気化機能失調(新陳代謝障害)を原因(中医学では本という)とみています。
これに関連してよく見られる症状(中医学では標という)が、いわゆる「痰脂」(水と脂質の停滞)と「瘀血」(血の滞り)です。
つまり動脈硬化を、体の働きを押し進める気血などの不足状態に、痰濁瘀血の症状が複雑にからみ合った病態だと考えるわけです。
予防・治療法のポイント
動脈内の痰脂と瘀血を取り除き、血管の弾力性を回復させて血を流れやすくし、気血・陰陽のバランス状態を回復することが治療方針となります。
血管の内壁に沈着した脂膏(血脂)をとり除く、いわゆる「化痰降脂」の作用をもった漢方薬としては、沙棘油、半夏、陳皮、沢瀉、海藻、何首烏、山楂子、決明子(はぶ茶によく使われます)などがよく知られており、その作用は動物実験や臨床観察でも確認されています。
一方、瘀血をとり除く「活血化瘀」の漢方薬としては、丹参、紅花、川芎、赤芍などがあり、血管を拡張し、微小循環の働きを改善します。
つまり血液の高粘滞状態ができるわけです。
また、蒲黄、水蛭、漏芦、黄耆、人参なども血管を保護し、血液凝固を抑えるプロスタサイクリン(PGI2)の分泌レベルを上げることによって動脈硬化の病変部を改善する作用があります。
動脈硬化は克服できる
以前は治らないと思われてきた動脈粥様硬化ですが、アメリカでの実験によると、精進料理などでコレステロールの摂取を厳格にコントロールすれば、12〜18ヶ月後には、血中の中性脂肪やコレステロールなどの脂質が減少するとともに、硬化斑塊がが顕著に縮小したり消失するという報告があります。
動物実験では、化痰降脂薬と活血化瘀薬を同時に使うのがよく、どちらか一方の単独投与では、思ったほどの効果が引き出せなかったという報告もあります。ともかく、それまでの不規則な生活を改め、化痰降脂と活血化瘀の中成薬の服用をしっかりと続けていくなら、改善あるいは治癒の希望があるということです。
以上、虚血性疾病患の治療では、心・肝・脾・腎などの機能低下を改善する「補虚」の方法と、各人の体質を中医学的に弁証(判断)して、症状の改善をはかります。