今、不妊治療で気になるコト
新型コロナウイルスに感染した場合の卵子はどうなるのか。
不妊治療中であれば、とても気になるコトです。
今回の研究結果では、無症状の場合、卵子は新型コロナウイルスに感染はしていませんでした。
この結果には注意が必要で、新型コロナウイルスに感染した場合、無症状とはナニが基準なのかが曖昧なこと。
そして2名という少数ということです。
新型コロナウイルスの正しい名称
皆さんが知っている新型コロナウイルスは、一般的な風邪の時のコロナウイルスと違うために新型と呼ばれています。
WHOは新型コロナウイルス感染症の正式名称を「COVID-19」と発表しています。
これは、あくまで感染症と感染者への名称となります。
ウイルス名は「SARS-CoV-2」と国際ウイルス分類委員会が名付けています。
私達が一般的に新型コロナウイルスというのは、本来であれば、誤解されるかもしれない呼び方なのかもしれません。
卵子は新型コロナウイルスに感染するのか?
現在SARS-CoV-2の人体への影響が少しずつ明らかになってきており、生殖器官への影響に関しても研究が進められています。
そのような中、SARS-CoV-2が卵子にも感染するかについて調べた報告がありましたのでご紹介します。
対象・方法
スペインにある著者らのクリニックでは、採卵時に全ての卵子提供ドナーにPCR検査を実施しています(採取された成熟卵は全て凍結保存され、PCRの結果は後日判明します)。
2020年3月後半、24人のドナーが採卵とPCR検査を実施し、2名(8.3%)が陽性でした。
この2名の女性(AとB)は、2020年2月下旬に卵子提供のドナーになるためにクリニックを訪れ、この際、Aは無症状、Bは2月上旬に軽度の風邪のような症状があったことを報告しています。
今回は、2名の陽性患者(AとB)由来の卵子が研究対象となっています。
合計16個(A; 6個、B; 10個)の凍結卵子を融解後、卵子1個ごとにcDNAを合成し、リアルタイムPCRによりSARS-CoV-2遺伝子および感染に関与する遺伝子の検出を行っています。調べた遺伝子は以下の通りです。
SARS-CoV-2 N gene:SARS-CoV-2を構成する遺伝子
Angiotensin I converting enzyme 2 (ACE2) とBasigin (BSG):SARS-CoV-2の受容体
Transmembrane serine protease 2 (TMPRSS2) とCathepsin L (CTSL):SARS-CoV-2が細胞へ侵入する際に働く
結果
SARS-CoV-2 N geneは、全ての卵子で検出されませんでした(A; 0/6、B; 0/10)。
ACE2は、A由来の卵子で6個中2個、B由来の卵子で10個中3個検出されました。
TMPRSS2は、全ての卵子で検出されませんでした(A; 0/6、B; 0/10)。
BSGは、A由来の卵子で6個中6個、B由来の卵子で10個中9個検出されました。
CTSLは、全ての卵子で検出されました(A; 6/6、B; 10/10)。
解説
本論文は、PCR検査で陽性であった女性の卵子を用いてSARS-CoV-2 RNAの検出を試みた初めての報告です。
2名の無症候性陽性患者において、調べた全ての卵子から新型コロナウイルスのRNAは検出されませんでした。
また、主要な感染経路として考えられている、ACE2とTMPRSS2は低発現でした。
しかし、BSGとCTSLの発現はほぼ全ての卵子で検出されたので、複数の経路を介した感染の可能性は排除できません。
より正確に評価するためには、タンパク質の存在を調べる必要があります。
症候性患者については判断できませんが、実際に臨床で問題になるのはART治療を受けた方が無症候者だった場合だと思います。
今回のような無症候のケースでは、卵子を介した垂直感染は発生しない可能性があり、卵子を取り扱う医療従事者にとっても危険性がない可能性を示唆しています。
本研究は、対象が2名だけで小規模なものであり、更なる検証が必要ですが、とても貴重なデータであることには間違いありません。
卵子は新型コロナウイルスに感染するのか?
参照:Undetectable viral RNA in oocytes from SARS-CoV-2 positive women